[世論に左右される司法]リーガルハイのセリフ全文

世論に左右される司法に戻る


古美門
「良くもまぁピンポイントで安藤貴和が出てくるところを見るものです。この地域には5分に一度は徳永家の勝手口を見ることにしましょうという条例でもあるんでしょうか?」

醍醐
「どなたも証言には自信を持っており、偽証しているとは考えにくい。」

古美門
「そりゃあ自信を持ってるでしょう。徳永家の勝手口から出てきたのがたとえ突撃隣の晩ご飯のヨネスケであったとしても安藤貴和に見えたに違いないみんながそれを望んでいるから。人は見たいように見、聞きたいように聞き、信じたいように信じるんです。検察だってそうでしょう?」

醍醐
「侮辱だな。」

古美門
「ええ侮辱したんです証拠によってではなく民意に応えて起訴したんです。」

醍醐
「我々は公僕だ。国民の期待に応えるのは当然だ。」

古美門
「愚かな国民の愚かな期待にも応えなければならないんですか。」

醍醐
「愚かですか?」

古美門
「ええ愚かで醜く、卑劣です。」

醍醐
「傲慢極まりない。私は、素晴らしい国であり、美しく、誇り高い国民だと思っている。」

裁判長
「逸脱した議論を勝手に進めないで。」

裁判官
「いいじゃありませんか。興味深い議論です。」

古美門
「美しく誇り高い国民が証拠もあやふやな被告人に死刑を求めますか?」

醍醐
「本件の場合、有罪であるならば、極刑がふさわしい。我が国においてそれは、死刑だ。」

古美門
「生命はそのものに与えられた権利です。それを奪うのはたとえ国家であっても人殺しです。」

醍醐
「あなたが死刑廃止論者だとは、意外だな。」

古美門
「いいえ反対じゃありませんよ。目には目を歯には歯を殺人には殺人を、立派な制度だ。ただ人知れずこっそり始末することが卑劣だと言っているだけです。」

醍醐
「白昼堂々と殺せと言うのか。」

古美門
「その通り。青空の下市中引き回しのうえ、磔火あぶりにした上でみんなで一刺しずつ刺して首をさらし万歳三唱した方が遙かに健全だ。だが我が国の愚かな国民は、自らが人殺しになる覚悟がないんです。自分たちは明るいところにいて、誰かが暗闇で社会から消し去ってくれるのを待つ。そうすればそれ以上死刑について考えなくて済み、この世界が健全だと思えるからだ。違いますか?」

醍醐
「仮にそうだとしても、それもまた民意だ。」

古美門
「民意なら何もかも正しいんですか?」

醍醐
「それが民主主義です。」

古美門
「裁判に民主主義を持ち込んだら司法は終わりだ。」

醍醐
「果たしてそうかな?」

古美門
「そうに決まってるでしょう。」

醍醐
「いささか古いな。法は、決して万能ではない。その不完全さを補うのは何か、人間の心だ。罪を犯すのも人間、裁くのも人間だからだ。多くの人々の思いに寄り添い、法という、無味乾燥なものに血を通わせることこそが、正しい道を照らす。裁判員裁判は、まさにその結実だ。そして本件において、人々が下した決断は、『安藤貴和は、死刑に処されるべき』というものだった。愛する家族と、友人と、子どもたちの健全な未来のために!これこそが、民意だ。」

裁判長
「静粛に、静粛に!」

古美門
「素晴らしい。さすが民意の体現者醍醐検事、実に素晴らしい主張ですよ。いいでしょう、死刑にすればいい。確かに安藤貴和は社会を蝕む恐るべき害虫です駆除しなければなりません。次に寝取られるのはあなたのご主人かも知れませんからねぇ、あなたの恋人かもしれないし、あなたの父親かもしれないしあなたの息子さんかもしれない、あるいはあなた自身かもしれない。
死刑にしましょう。現場での目撃証言はあやふやだけれど死刑にしましょう。被告人の部屋から押収された毒物が犯行に使われたものかどうか確たる証拠はないけど死刑にしましょう。現場に別の毒物らしき瓶が落ちていたという証言があるけれど、気にしないで死刑にしましょう。証拠も証言も関係ない、高級外車を乗り回しブランド服に身を包み、フカヒレやフォアグラを食べていたのだから死刑にしましょう。それが民意だ、それが民主主義だ、なんて素晴らしい国なんだ。民意なら正しい、みんなが賛成していることなら全て正しい、ならば、みんなで暴力をふるったことだって正しいわけだ。私のパートナー弁護士をよってたかって袋だたきにしたことも、民意だから正しいわけだ。・・・冗談じゃない・・・冗談じゃない!本当の悪魔とは、巨大に膨れあがったときの民意だよ。自分を善人だと信じて疑わず、薄汚い野良犬がドブに落ちると一斉に集まって袋だたきにしてしまう、それが善良な市民たちだ。だが世の中には、ドブに落ちた野良犬を平気で助けようとするバカもいる。己の信念だけを頼りに、危険を顧みないバカがね。そのバカのおかげで今日、江上順子さんは民意の濁流から逃れ、自分の意思で証言をして下さいました。それは江上さんたった一人かもしれませんが、確かに民意を変えたのです。私はそのバカを、誇らしく思う。」

古美門
「民意などというものによって人一人を死刑にしようというのならすればいい。所詮この一連の裁判の正体は、嫌われ者を吊そうという国民的イベントに過ぎないんですから、己のつまらない人生の憂さ晴らしのためのね、そうでしょう醍醐検事。あなた方五人はなんのためにそこにいるんですか?民意が全てを決めるなら、こんなに格式張った建物も、権威づいた手続きも必要ない。偉そうにふんぞり返ってる爺さんも婆さんも必要ない。判決を下すのは、断じて国民アンケートなんかじゃない。我が国の碩学であられるたった五人のあなた方です。どうか、司法の頂点に立つものの矜持を持ってご決断下さい。お願いします。数々の無礼、お気を悪くされたかもしれませんが、所詮は金の亡者で嫌われ者のどぐざれ弁護士の戯言です、どうかお聞き流し下さい。